花うつ

花子28歳独身。パワハラによるうつ病に悩まされ、リストカットにまで追い詰められた。でも、うつ病は必ず治る、私なりの独自の治し方で、うつ病と向き合っています。うつ病に効く食材を使った料理紹介や小説も公開予定です!現在はフリーライターとしても活躍中。お仕事依頼もよろしくお願いいたします。お仕事依頼は、south1989.1322@gmail.com まで!!小説家志望ですので、いつか本を出せたらいいなと言う野望も持っていますw

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【小説連載】スニーカー 16話目

自分の29歳の娘が東京に行くというだけで、胸がざわつく親になるとは思わなかった。

これは、母上の心の中の叫び。

真紀を生んだとき、いつかこの子に素敵な出会いがあって、親から巣立っていく。そのときは、自分のさみしさなんか押し殺して、この子を見送ってあげたい。

 

そう思っていた。

 

真紀には悪いかもしれないが、正直、こんな娘の将来を予想してはいなかった。もっと幸せになって欲しかった。

真紀の手首から大量の血が流れている姿を見て、その原因が会社の上司だと知って、何度も包丁をもって上司のところに行こうと考えたことか。

特別、沢山の給料を稼いでいる訳ではないけれど、有名になる素質もないかもしれないけど、すべてが平凡かもしれないけど、それでも自慢の娘だった。

そのあと恋人の恭平君と別れたと聞いたとき、すべてを真紀が失った気がしてならなかった。だから母上は、真紀を全力で守らなければという使命感が強かった。

 

自分の娘から感情が消えていくのを、間近で見なければいけなかった母上。それは。どれだけ辛かったことだろう。

この子はもしかしたら、一生、笑えないかもしれないって何度も不安になった。

 

真紀に内緒で、母上は通院先の精神科に何度も足を運んだ。

娘にとって何をすることが一番なのか、何をしたら娘がうつ病から解放されるのか、他に治療方法はないのか。

しかし、確実な答えは病院の先生からは出なかった。

母上だって知っていた。うつ病って病気は、心の病気で、その治療法は人それぞれだということ。ネットや本で調べて、本当はすべて把握していたのだ。

でも、何かしたかった。

 

荒巻と言う上司を見てしまった真紀の様子が変で、母上は父上と話し合って、もう一度入院させることを考えていた。

仕事を辞めて半年経ち、なかなか回復の兆しが見えないのだ。それに増えてしまったトラウマ。

家から少し離れていても大きくて評判の良い病院を、母上は探していた。

 

そんな中で、真紀が東京へ行きたいと言った。大きな進歩だけど、本当に行かせていいものか葛藤もあった。でも、それでいいって自分を納得させた母上。

 

そして、真紀が東京へ行く朝も、自分の不安を押し殺してバス停まで車で送って行った。バスに乗る前の真紀は、笑って母上と父上に手を振っていた。

あんな笑顔、いつぶりだろうと母上は思った。

真紀の乗ったバスが出発し、姿が見えなくなったとき、母上は父上の胸の中で泣いた。

その涙は、不安からではなく、なにか安心した涙だった。

 

真紀からの電話は、想像よりも遅く、予想よりも明るくて、母上は腰を抜かしそうになった。

「おばさんが優しくて。」「お巡りさんが親切で。」「冷やし中華が美味しくて。」「餃子の肉汁がね。」

話が単語でしか、母上の耳に入ってこない。でも母上は分かっていた。今、真紀が楽しんでいることに。

 

今日は夕食はいるのだろうかと聞きたかった母上。しかし、安堵の気持ちから聞けなかった。だから、母上は電話を切った後に、父上を連れて買い物に出かける。

いらなくても久しぶりに、娘のために作る夕食の材料を買いに。

父上の運転する車の中には、母上の鼻歌が響き渡っていた。

 

続く。